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基礎知識玄関

◎靴を脱ぐ習慣のある日本では、玄関は重要な意味をもつ場所とされてきた。
◎和風住宅の玄関はあまり仰々しくせず、すっきりシンプルに、見せ所は一か所に。

玄関の歴史

玄関とは禅宗の言葉で「玄妙なる道に入る関門=深遠なる仏法に入る入口」の意味で、室町時代に足利義政が東山御所で玄関を設けたのが最初といわれています。

中世末から、禅宗では長老などの私室(方丈)の東南の隅に土間の廊下を突き出し、これを玄関と呼んでいたようです。玄関は貴族や武士の屋敷にも広まり、江戸時代になって現在の玄関の原型が確立しました。当時は階級や身分によって格式の差が表現され、大きさや型も異なっていました。

主人の公式行事・来客・対面のための表玄関と、家族のための内玄関、使用人や御用聞きのための勝手口と、家族でさえ玄関を分けて使うようになっていました。

正面玄関は唐破風の屋根を建物が本屋から突き出し、入口は開放されていて(その前方に門があり、そこに頑丈な木扉がある)、土間に続いて一段高くなって式台(板敷きの間)、さらにその奥に畳や板敷きの部屋(取次)があり、ここからが本屋となります。式台と本屋の畳敷きの境に舞良戸があるのが一般的です。この式台の板敷きは、江戸時代に籠をつけるために設けられたといわれています。

明治時代になると、一般人にも玄関が許され、玄関構えが立派なほど身分の高い人、格式のある家を指しました。そのため、人々は立派な門構え・玄関構えの家を持つことに憧れたのです。

玄関戸

和風住宅の玄関戸には、引き違い格子戸が似合います。材質は木かアルミですが、やはり和風住宅には木製の戸が似合います。アルミ製でも、周囲と調和する木質感のあるものを選びたいものです。

デザインはオーソドックスな竪格子戸や竪繁格子戸、切落し格子戸、細かい正方形の枡目の木連格子戸や、枡目の大きな木連荒間格子戸、横格子戸が使われます。農家風や民家風住宅では、腰下が板の舞良戸なども似合うようです。

ドアを使う場合でも、木連格子など、なるべく和風デザインのものを使うのがいいでしょう。

飾り棚の設置

床の間の正面壁を床の間の壁に見立てて、そこに通し(一文字)棚・釣り棚や洞床などを設けて飾りつけている玄関をよく見受けます。場合によっては、垂壁や袖壁を設けて、飾りつけの空間をよりしっかり確保することもあります。また、下駄箱の天板を床地板に見立てて、壁に絵や布や掛軸を掛ける玄関も見受けられます。

また、建築上はまったく飾りや仕掛けを設けず、飾り机や台を置いて置き床風にして上品に飾る方法もあります。また、壁を織部床に見立てた飾り方もよく使われます。

障子や窓で採光と和らぎを

玄関は暗くなりがちな空間なので、照明の設置位置は影ができないよう検討する必要があります。

また、外部からの光を妨げないよう、障子を使い、その保温機能も生かす方法もあります。障子を使うことにより、室内をやわらげ、安らぎをもたらすことができます。正面や側面の壁や腰窓・地窓に建て込みます。

正面や側面が壁の場合、圧迫感があり、玄関ホールが窮屈に感じられることがあります。そこで、壁にガラスや引き分け・引き上げ・雪見障子などを使って、採光・通風をおこなう一方、外の景色が眺められることで、広さや開放感を出すことができます。ガラス越しに見える庭や景色から、季節感や自然との融和も演出してくれます。

ポイントは、土間に立ったときの視線から眺める庭の景色や範囲を考え、ガラスや窓の位置・大きさ・デザイン、さらに庭のつくり方を決めることです。取次の壁部だけでなく、下駄箱や土間の壁に障子窓や地窓などを設けるのもいいでしょう。

ホールの演出

飾りは「控えめに、涼しげに、シンプルにすっきりと」が鉄則です。せっかくお金をかけて色々飾っても、多すぎると騒がしくて落ち着かない下品な玄関ホールになってしまいます。

絵や布や工芸品、旬の草花などによる、季節に応じたもてなしの心配りがコツです。

土間とホール床の高低差・玄関の広さ

玄関から取次の間までは、一般的には土間・沓脱石・式台・上り框・取次の順で構成されます。沓脱石や式台は省略されることもあります。また、上り框のかわりに、柾目のマツ・ケヤキ・クスノキ・カエデなどの一枚板を納めて使う方法もあります。

昔の格式の高い玄関では、土間に立った人と迎える側の取次に座った家人との目の高さが一致する玄関の広さように、土間からホール床(取次)までの高さが50〜60㎝ もありました。しかし、現在では、このような高低差のあるつくりは、民家や寺社建築以外ではほとんど見られません。

上り下りに楽な寸法は、段差15〜20㎝ といわれています。高齢者の使いやすさ、靴の脱ぎ履きの便利さを考えると、土間(沓脱石)とホール床の間に式台を設ける場合でも設けない場合でも、段差は18㎝以下が適当です。

式台を設ける場合は、奥行は25〜30㎝ くらいが適当です。最近は式台も省略し、幅木と上り框だけにして、段差を12〜15㎝ くらいに低くしたつくりも増えています。ただし段差をあまり低くすると、中途半端でかえって危険です。

和風の趣を大切にしながら段差を低く抑えたいのなら、薄い沓脱石を置いて、ホール床との間には一段の高さが18㎝ 以内になるように必ず広めの式台(踏板)を設けましょう。

玄関の広さ

和風住宅の玄関は、間口1間〜1間半(210〜270㎝ )×奥行2間〜3間(360〜540㎝ )程度がいいようです。ただし、住宅全体との対比で、広すぎる玄関はバランスを欠く場合があります。建築家・村野藤吾に教えた泉岡宗助の語録には「玄関を大きくするな。門戸を張るな」とあります。

一方、民家風建築を中心に土間空間を広くとる例も見られます。広い土間空間にベンチやテーブルを置いて、接客・家族団らんや趣味のスペースとすることができるのです。靴の脱ぎ履きのために、土間にベンチや手摺を設置する例も多く見られます。