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基礎知識床の間の種類

◎床の間のかたちにはさまざまなものがある。空間の広さ、真・行・草のどの構えになるか、周囲の空間との調和などを考えて検討したい。
◎スペースが狭くても床の間を設ける方法がある。

円窓床・霞床

床の間の壁に円窓を設けたのが円窓床です。円窓に書院風の柳格子の建具を入れたものを特に日の出棚、または朧棚と呼ぶことがあります。

また、床の間の壁に月や富士山を描いた軸を掛け、その前面に違い棚を設けたものが霞床です。床の壁と違い棚の間にわずかな隙間が生じるので、棚の向こうの絵が違い棚の影を映し込んで霞む景色のように見えるところから名付けられました。霞床はおもに床脇に用いられますが、それを床の間に代用した例もあります。

西行院皆如庵の円窓床や大徳寺玉林院の霞床の席が有名です。

琵琶床

達磨床ともいいます。床の間の脇に少し高い琵琶棚を設けたもので、昔この棚に琵琶を置いたためこの名前があるといわれています。

一般的に琵琶床の天板は床框より15㎝ 、畳上端よりも27㎝ 高く、書院地板よりも10㎝ 下に設けます。棚板は漆塗りやカリンがよく使われ、木口は切放しで面を取らないのが普通です。

本床と琵琶棚の間には仕切りを設けず一体化させるのが一般的ですが、まれにその境に半円型の壁を設けている例もあります。

釣り床

下部は普通の座敷の畳敷きのまま床柱・床框・床地板を設けず、天井の一部に吊束を下げて垂壁を設け、これに落掛をつけた簡素な床の間です。

壁柱の中間ぐらいから腕木を出し、袖壁を付けた釣り床を特に腕木床と呼びます。脇の壁に掛け障子を設けたり、腰部分を紙貼りにする意匠もあります。

狭い場所でもコンパクトに掛け軸や花などを飾る空間を確保できるので、小和室や玄関・コーナーなどに用いられます。

置き床

織部床と同様に床の間スペースを設けないかたちの床の間。部屋の隅や踏込床の床地板の上に可動式の低い小型の飾り棚や花台、あるいは漆塗りの板や銘木の厚板を一枚置き、そこに花や工芸品などを飾るだけの簡素な床の間です。

天井廻り縁や付け鴨居に掛け軸用の釘を打って書画を飾ると、一層床の間らしくなります。ただし床天井はありません。数寄屋風の小和室や薄縁敷きの畳コーナー、板の間にゴザを敷いた民家風の部屋や玄関ホールに向きます。飾り棚を造り付けたものは付け床と呼ばれます。

織部(おりべ)床

壁床ともいい、特別に床の間のスペースは必要ありません。壁に一枚の幕板(雲板)を張るか、天井廻り縁に折れ釘を打ち、掛け軸を吊るすだけ(壁床)で床の間という装飾的空間をつくり出します。狭い和室や玄関など広い床の間をつくれない場合に多く用いられ、名前は古田織部が考案したことにちなんでいます。下に飾り棚を置いた織部床+置き床というかたちもよく見られます。

幕板は天井廻り縁のすぐ下に成6〜7寸(18〜27㎝)で取り付けられ、多くは杉柾目が用いられます。

室(むろ)床 (塗り回し床)

床の間の内壁・入隅・天井までトンネルのように土壁で丸みをつけて塗り回した床の間です。

洞床では聚楽壁などの壁の端側面を薄板を使った左官刀刃仕上げにするつくりが大半ですが、薄板を使わない場合は左官職人の腕が決め手です。上手な左官職人が少ない中で美しく仕上げるコツは、曲線部や各先端部分に壁と同じ色・質感の合成樹脂系塗料をガンで数回吹付けて、厚み・立体感を出すことです。有名な室床には、千利休の唯一の遺作と伝えられる国宝の妙喜庵待庵(京都府大山崎町)があります。

洞(ほら)床 (龕破(がんわれ)床・龕合(がんごう)床)

踏込床にし、床框も落掛も省略(床柱も省略する例が多い)、前面の片側にアーチ曲線や矩形(L字型・直角)の下がり壁や袖壁をつけて洞をつくります。床内部も隅柱を見せないように塗り回し、正面から見えるのは床地板の他は土壁面のみ。洞壁の端は左官刀刃(端欠け)仕上げとします。数寄屋風小和室・玄関に見られます。村野藤吾の作品に多く見られます。また、仁和寺飛濤亭などの茶室が有名です。

また、洞壁の左右に対照型の袖壁を設けた洞床を龕破床(龕合床)と呼びます。袖壁の曲線を洗月のようにした洗月床もあります。

袋床

床柱とは別に床の左右どちらかの落掛の下に中柱を立て、袖壁を設けた床の間。床の間をすべて開放せず、袋状にしたかたちです。袖壁の下部を開けて吹抜けにしたり、袖壁に下地窓を設ける例も多く見られ、袖壁の意匠によりバリエーションも豊富になります。

床框をつけず蹴込床にするのが一般的です。4畳半〜6畳の茶室風和室に似合い、野趣で侘びた味わいとなります。丸太や細めの曲がり雑木や竹など、野趣に富んだ材料を使いたいところです。

原叟(げんそう)床

畳一畳分の床地板を敷き込み、その地板の角隅ではなく横も前後も少し内側に引いて(台目くらいの位置に)床柱を立てたものを原叟床と呼びます。多くは踏込床のかたちになります。床の領域から地板が外に広がり出たようにしたもので、広がりがある感じが出ます。

上部には同じく畳一畳分の釣り床が設けられます。床柱には杉磨き丸太をはじめとする丸太が多く用いられます。桝床とともに表千家六代覚々斎原叟の考案と伝えられています。金沢兼六園の成巽閣清香軒の竹の床柱の原叟床が有名です。

蹴上(けあげ)床

踏込床では畳と床地板が同じレベルであるのに対して、床地板を少し高くした床は蹴上床と呼ばれます。

踏込床の一種ではありますが、畳と床板の境界線をはっきりさせ、かつ踏込床の特長も生かすため、床地板を畳面より1㎝ ほど上げた造りにしたり、その板の厚さ分だけ高くしているものです。この場合も奥行きを深めにとることが多いようです。

蹴込床の取付方法とほぼ同じですが、前面と後方の根太掛けに吸付き桟を落とし込んで取り付けます。